自分の土地を持つ(29 may 2025)









本サイトを開設した目的を家族に話していたときに、「サイトを持つことは土地を持つことに似ている」という言葉が頭に浮かんできた。

サイト所有者とは自分の土地を持っている者、いわば地主である。何を作ってどこに出荷するか、自由に決定できる。これに対してSNSの利用は、地主の農地を借りて農業をする小作人の労働と類似している。作物の栽培方法、出荷先から使う農薬まで、さまざまな事柄があらかじめ地主(サービス提供者)によって決められている。

ここで念頭に置いているのは、一般的なSNSによくみられるさまざまな「方法の規定」と「力の不均衡」である。


方法の規定

以下は、SNSのサービス提供者が決定しておりユーザ側で自由に変更できない事項の例である。

  • 文字数の上限
  • 字体
  • 文字の大きさ
  • 写真の枚数の上限
  • 投稿した画像が表示される際の縦横比、大きさ
  • 相互評価機能(いいね等)、コメントや返信機能の利用の有無

プラットフォームの提供者による表現方法の規定は、SNSでの情報発信を手軽なものにする。ユーザが検討すべきことが少なくて済むためだ。SNSが、その制約の多さにもかかわらず、オンライン・コミュニケーションの手段として現在最も広く普及していることにもうなずける。


力の不均衡

一方で、多くの制約を甘んじて受け入れることで可能になるSNSでの手軽な交流には、脆弱性も潜んでいる。最も注意すべきことは、サービス提供者が、ユーザのアカウント作成時に交わした取り決めやサービス全般のありかたを、一方的に変更できるということだ。地主と小作人の関係がそうであるように、サービス提供者とユーザの間にも、不均衡な関係がみられる。小作人が畑を借りた当初には、畑の脇の納屋に道具を置くことが許されていたとしよう。ある朝かれが畑に出た時、「1か月あたり8ドルのプレミアム会員費を支払わなければ、この納屋は使えなくなりました」という立て看板が設置されていて、納屋には鍵がかかっていた、ということが起きない保証はないのだ。

もちろん、こういった事象は無料のウェブサイト作成サービス(例えばまさに今あなたが読んでいるこのサイトも、WordPress上で作成されている)でも起きうることだ。ブログの方がSNSよりも比較的ユーザに大きな裁量があるというだけで、ブログも、何かのプラットフォームを利用して作成するならば、本当の意味で我々を地主にするわけではない。


ブログの安定性

それでもなお、ブログの作成を推奨したい。サービス提供者の意思で広告を自由に表示できるSNSと異なり、サービス提供者による広告表示に制約のあるブログはメタクソ化しにくいからだ。

SNSは基本的に「多くのユーザの投稿を一覧する行為」を主軸に置いていて、その一覧方法を決める主体はサービス提供者でしかありえない。プラットフォームによって違いはあるものの、多くの場合、上下にスワイプするタイムラインに投稿が表示され、左右にスワイプするスライドショーにストーリー(24時間で自動消失する、写真や動画を中心とした投稿)が表示されるというものだ。サービス提供者は表示方法を自由に決定できると同時に、表示内容を決定することもできる。ユーザが閲覧する他のユーザの投稿の間に、一般的なユーザの投稿と全く同じ表示方法で、広告を表示させるのだ。

一方でブログは「一人のユーザの投稿を閲覧する行為」を基本とする。一覧方法をサービス提供者が決めてしまうnoteのようなプラットフォームを除き、多くの場合で、ブログの持ち主が表示の方法を詳しく決定できる。訪問者に広告が表示されるブログサービスも多いが、例えば無料版Wordpressで作成されたサイトには、最上部にWordpress自体の細い広告バナーが表示されるだけで、一般的な意味でのWeb広告(枠を買った他者の広告が表示される)はない。Web広告のないサイトでは、「訪問者が何をどのように閲覧するか」がサービス提供者の収益に影響しないので、サービス側が訪問者を引き留めたり [1] 、訪問者に表示される投稿内容を調整したりする必要もない。ユーザが伝えたい情報を、それを受け取りたい他のユーザが受け取るという過程に、サービス提供者が介入しにくいのである。


自分の土地を持つ手間

SNSの利用に比べて、ブログの設立及び管理には多大な手間がかかる。これを克服しない限り、SNSからブログへの逃亡という提案は成立しないということは、私も理解している。

現在私が採用している方法は、Wordpress無料版で適当なテンプレートを選択し、タイトルやサイト内メニューなど最低限の項目を整えて、すぐに投稿を始めるというものだ。私が選んだテンプレートにはタグ機能がなく、投稿を話題ごとに整理して一覧することができない。しかし、そういった仕様は後からでも変更できるので、今はただ投稿を増やしている。


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[1] 何人のユーザが広告を見て、そのうち何割がリンクをタップして、そのうち何割が実際に商品を購入したか、という実績がサービス提供者の広告収益につながるため、サービス提供者はさまざまな工夫を凝らして、ユーザのアプリ使用時間を長くする。